働き方改革に対応した就業規則見直しのコツ

“働き方改革”に対して、こんな疑問ありませんか?

「働き方改革って、結局なに?」
「中小企業でも、何か対策しないといけないの?」
「やるメリットって、会社側にもあるの?」

2019年春から施行された「働き方改革関連法」。

でも、働き方改革という言葉自体は知っていても、それをどう自社のケースに当てはめて就業規則を変えていけばいいのか?というのはなかなか分かりづらいですよね。

社員のワークライフバランスを尊重するのはとても大切なこと。それは分かっていても、何が会社の義務であり、どうすれば会社にメリットがあるのか?を知っていないとなかなか動き出せないのが現状ではないでしょうか。(実は、中小企業でも違反すれば罰則対象となるものもあるので要注意です。)

というわけで、今日は現在続々とお問合せも増えている『企業の「働き方改革」対策』について、特に中小企業の方にとって関連の深い部分をまとめてご紹介していきたいと思います。これらの一連の法の施行にともない、今後は就業規則の見直しや36協定の結び直しが必要になってくる、とても重要な内容になるので、ぜひ目を通していただきたいと思います。

そもそも“働き方改革”とは何か?

少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化に対応するために、労働力の確保と労働環境の改善のために進められている政策です。また、過労死やうつ病などを未然に防ぐといった狙いもあるようです。様々な法律の改正がありましたが、中小企業にとって特に関係が深いのは、長時間労働の是正や有給取得の義務化というテーマだと思います。

そして、特に注意しなければいけないのは、今回の改正により違反をすると罰則規定があるということです。なかには刑事罰(罰金刑・懲役刑)のあるものも。残業代に関する中小企業の猶予規定もなくなったので、今までとは訳が違います。

働き方改革はいまや決して大企業だけのものではありません。中小企業の皆さんにとっても、今後は労働時間や有給の管理の徹底や、残業を減らすための取り組みが不可欠となっていきます。ただ、闇雲に不安を煽るようなことはしたくありません。私は、「働き方改革」という大きなテーマに前向きに取り組み、具体的な対策方法を知ることで、より業務の効率化に繋がり、会社を成長させるチャンスにも繋がると考えています。まずはみなさんから質問が多い「時間外労働の上限規制」、「年次有給休暇の取得義務化」というテーマを掘り下げて順にみていきましょう。

 

ついに残業時間について上限が定められました

今までは、36協定の上限規制として「月45時間、年360時間」と定められていましたが、一時的な特別の理由がある場合には、1年のうちに6ヶ月を超えない範囲であれば「特別条項」を設けることができました。また、違反しても刑事罰の対象などではなかったため、今までは実質的には残業は青天井だったのが、ついに上限が定められたということです。

以前、ある病院がこの制度を悪用して、特別条項の最大労働時間を「300時間」に設定していたことがニュースにもなりました。いくら36協定で合意があるとはいえ、このような無理な働かせ方は健康被害に繋がり、社会的にも容認されるものではありません。そんな背景もあり、上限を法的に定めるべきという声が大きくなっていったのです。

今後、時間外労働は原則として残業は「月45時間、年間360時間」まで。特別条項を設ける場合も、1年のうち6か月を超えない範囲であり、かつ年間の時間外労働時間が月平均60時間(年720時間)とすること。休日労働を含め、月平均時間外労働時間が80時間を超えないこと。休日労働を含め、1か月の時間外労働を100時間未満とすること。

というルールが明記されました。守られなかった場合は、労働基準法違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金というペナルティが課されます。

 

気になる残業代については?中小企業の特例措置が消滅

長時間労働が常習化することがないように、企業側に時間外労働(1日8時間以上、週40時間以上を超える労働)の対価として1.25倍の残業代を払うというのは周知の通りですが、それに加えて月60時間を超える時間外労働に対しては、1.5倍の残業代が発生することを知っていますか?
いままで、この月60時間を超える残業代の割増(1.5倍)は、中小企業への適用は猶予されていました。それが、2023年4月からは大企業と等しく義務となります。こちらも正しく残業代が払われていないと、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。

ただ、「そんなに残業代は払えない!」という心情もお察しします。まだ施行までには3年以上ありますので、残業を少なくする仕組みづくりを今から段階的に進めておくことをおすすめします。また、所定時間外労働をするときは事前申請制として、会社の許可を得るようにしましょう。そもそも時間外労働やいわゆるサービス残業が自社でどの程度発生しているのかよく分からない・・・そんな方も多いのではないでしょうか?タイムカードなど、勤怠管理の方法の見直しも、これを機に行うとよいと思います。

 

「勤怠管理」についてのルール作りのヒント

今後は残業を抑制するために、労働時間を会社できちんと管理することが必須となります。例えば出勤時、退勤時にタイムカードで打刻したり、入退室の記録をICカードを使って管理したり、パソコンのログを取ったり・・・といった、客観的なデータを使った把握をすることが必要です。営業マンの直行直帰の際のルールの見直しもしてみましょう。

また、タイムカードの打刻を他の人に頼んだりしている社員はいませんか?出退勤の記録は、従業員自らが行いましょう。遅刻しそうだから、他の社員にお願いして押してもらうのは絶対にダメです。本人の給料に関わる部分ですから、社員の中に5分の遅刻はオッケーといった心の緩みがないようにしましょう。残業代をきちんと払うからには、1分単位で正確に申告していただかなければいけません。また、会社側できちんと把握することで、未然に働きすぎの社員本人に通知をしたり、注意喚起することができます。時間数が超えてしまってから慌てるのではなく、事前に残業させないための仕組みを作ることが必要です。この規定は管理監督者も対象となりますので、「自分は関係ない」と思う社員がいないようにすることも大切です。

勤怠管理の徹底は、働きすぎの人を救い、無駄な残業を減らし、仕事分担の平準化にも役立ちます。「5割増しの残業代を払いたくない・・・」という後ろ向きな気持ちで取り組むのではなく、業務効率化や社員の働きやすさ、ワークライフバランスの実現に繋がるようにしていきましょう。

また、働き方改革を推進することで、社員の不満も解消されるようになります。「良い社員に限って急に辞めてしまう・・・」ということはありませんか?社員の離職は、様々な側面から企業のコストを大きく圧迫します。有能な社員にばかり仕事が集まり、サービス残業が横行した結果、離職するといった事態を回避することにもなりますので、ぜひ本腰を入れて早め早めに取り組んでいただけたらと思います。

 

勤務時間管理のポイント

・分単位の労働時間の把握は、社員と会社両者のためになると認識しましょう
・客観的な方法で勤務時間を記録し、管理
・所定外時間労働をする際には、事前に許可を取るという社内ルールがお勧めです
・労働時間管理は、管理監督者も対象であることを周知させておきましょう
・アラート機能の整備など、残業させないための仕組みづくりをしましょう

残業代を削減するために中小企業ができることは何か?

残業を削減して、効率的な働き方を推進する上での新制度をご紹介したいと思います。

勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務時間を終えた後、翌日の出社までに一定以上の休息時間(インターバル)を設けることを言います。

睡眠時間の確保やワークライフバランスを維持するために、通常8~12時間で設定するケースが多いようです。この制度が2019年4月から努力義務となりました。長時間労働の抑制や、健康を保つために効果があり、国としても積極的に推進していく意向のため助成金の対象でもあります。

フレックスタイム制の導入

フレックスタイムという言葉は、みなさんも結構耳にされることが多くなったのではないでしょうか?フレックスタイム制とは業務の開始時間・終了時間を社員が自分で決められる働き方のことです。

例えば、
6時~10時  フレキシブルタイム
10時~12時  コアタイム
12時~13時  休憩
13時~15時  コアタイム
15時~19時  フレキシブルタイム

このように定めたとします。すると、コアタイムである10時~15時を含む就業時間にすれば、始業時間と就業時間は自分で決めることができるのです。これだと、6時~15時でも10時~19時でも、休憩1時間含む8時間労働となります。フレキシブルタイムの範囲内で1日8時間労働×週5日=週40時間を越えなければ残業にはなりません。

さらに、この範囲内であれば、1日の労働時間が例えば
月曜 6時間
火曜 10時間
水曜 5時間
木曜 8時間
金曜 9時間

であっても週で換算すると40時間以内となります。

また、2019年に労働基準法が改正になり、フレックスタイムの精算期間が3ヶ月になったので、この制度の使い勝手が大幅に改善されました。31年度のフレックスタイム導入率は5.0%(厚労省 平成31年就労条件総合調査)とまだ少ないものの、準備中の企業もあるためこれから増えていくのではないかな?と予想しています。社員が柔軟な働き方ができるようになるのは、会社にとっても良いことです。

テレワークの導入

パソコンやネットの普及により、カフェや自宅で仕事をする方も近年とても増えてきましたね。職場の場所にとらわれない働き方「テレワーク」が注目されています。導入の仕方もさまざまで、週2日だけ、〇時~〇時と時間で定める場合もあります。テレワークは単に社員の都合を優先するという意味ではありません。効率的な働き方に繋がり、社員だけでなく企業にもメリットがあります。

しかし、中小企業でのテレワーク導入は、まだまだ少ないと感じます。管理の手間を懸念したり、他がやっていないから、良く分からないからといった理由もあるようです。みなさんは、テレワークにどんなメリットがあるか知っていますか?

例えば、テレワークの導入をすることで、外勤の営業マンの不要な移動時間が勤務時間に含まれるのを避けることができます。移動時間は、車を運転したり、電車移動なら居眠り、読書、携帯ゲームなど…拘束時間であることは確かなのですが、あまり働いているとは言えない時間ですよね。テレワークをする代わりに帰社を義務づけないことで、無駄な時間が減り、生産性がアップします。また、テレワークを導入すると、育児や介護による離職を防ぐことができるというメリットもあります。

せっかく仕事を覚えた人が、育児や介護を理由に辞めてしまうと、また新人教育からスタートしなければいけません。少子高齢化の今、育児や介護などを理由に限られた働き方しかできない人材を有効に活用することは、企業戦略としてとても大切なことです。

テレワーク導入時の注意点としては、
・勤怠管理の方法を整える
・いつでも仕事ができる⇒長時間労働の常習化にならないよう注意する
・コミュニケーションの取り方、人事考課の方法に気を付ける
・セキュリティーや機密保持に関する対策を行う

これらのことが必要になります。社員間で不公平感が生まれたり、顔を合わせることが減った結果コミュニケーション不足に陥ったりしないように、事前に対策を立ててからスタートすることがカギになります。

また、テレワークをすることで、パソコンや車など会社の所有物を個人管理することも増えるかと思います。ですから、業務外利用を禁ずる規定をする、持ち出しを許可制にする、モニタリングの実施規定、ソフトウエアの無断ダウンロードの禁止など、情報漏洩や不正利用をしない・させないための取り組みが必要です。

 

その他、ホットな話題

他にもさまざまな取り組みが広がっているようです。例えば、

在宅勤務(リモートワーク)制度
席の固定化をなくすフリーアドレス
タブレット支給により直行直帰が可能な環境を整備

などがあります。リモートワークは、テレワークによく似ていますが、業務時間の一部の場所を変えるのではなく、完全に在宅勤務とするスタイルもあるようです。

また、オフィスの席を自由に移動できるフリーアドレス制にしたり、デスクから椅子を排除したりといった方法を行っている企業もあるのだとか。集中力を高めてダラダラと長時間働くことを抑制したり、議論を活性化したりといった成功例も数多く挙がってきているようです。フレックス勤務の利用者が多い企業では、夕方から夜の会議は避け、ランチミーティングの開催が主流のようです。

その会社の風土に合うもの、合わないものがあると思いますので、すべてを真似する必要はありませんが、今よりも生産性を上げるための良いヒントが隠れているかもしれませんので、いろんな取り組みを検討してみてはいかがでしょうか?

 

年次有給休暇の年5日間取得義務化について

さて、ここまで働き方改革を「時間」というくくりで見てきました。残業を減らし、より柔軟で効率的な働き方を推進することは、企業にも社員にもメリットが多いことが分かりました。次は、「日」というテーマでみていきましょう。今回規定された年次有給休暇、いわゆる有休の取得義務化についてお伝えします。

有給は5日取得することが義務に

有休はいまや社員の権利というだけでなく、取らせること自体が企業の責任という考え方に変わりました。使用者は、雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては所定の有給休暇を与えなければなりません。そして、今回2019年4月に施行された新法では、有給休暇の付与日数が10日以上であるすべての労働者については、そのうち年5日間は必ず有給休暇を消化させる義務があります。

つまり、有休の付与ルールにそのものついてはほぼ従来通りなのですが、今回新たに変わったのは、有休を消化させることが会社の義務になったのです。有休が10日以上ある全労働者(つまり正社員だけではなくパート・アルバイトなども含む)には、1年のうちどこかで絶対に5日間有休を取らせなければいけませんよ、ということなんです。この義務を怠ると30万円以下の罰金規定の対象となるので、気を付けましょう。

社員の中に、有休を年に5日間以上取っていない人は何%いますか?
そもそも自社の有給休暇の取得率が分からない・・・という方もいるかもしれません。これからは、本人の申請がないからと言って有給を取らせていないと法律違反となります。これは企業規模に問わず全社が対象となります。

年次有給休暇5日間の取得を確実にするためのポイントは、
・取得状況の把握をする
・年次有給休暇の計画的付与について、規定しておく
・有休取得に関する社内ルールを定め、周知する(何日前に届け出るか等)
・半日休暇を規定するなど、使いやすさの整備も大切

また、1ヶ月とか長期間に渡る有休を申請された場合や、休職に関する規定についてもこれを機に見直しておくことをお勧めします。

 

副業・兼業のルールを定める

働き方改革と関連して、副業や兼業に関する規定をまだ作っていない会社さんは、考えておくことをおすすめします。社会全体の流れとしては、副業や兼業を認める方向になりつつあります。しかし、会社としてそれを認めるのかどうかというのは別問題です。まず、副業・兼業を認めるのかどうかを定めます。そして、認めるのであれば、制限を設けるかどうか。会社秘密の漏洩リスクや、働きすぎによる健康被害から社員をどう守るのかという問題。2社合算した時の割増賃金発生の問題などがあります。

この副業・兼業規定は、大企業の中でもフレックスタイムやテレワークの導入より、さらにもう一歩ハードルが高いと感じている方も多いようです。問題が後々生じないように、許可するにしろ、禁ずるにしろきちんと規定を設けておくことが会社を守ることに繋がります。たとえば、副業をする際、どこで、どのぐらい働くかというのを会社に事前に届け出ることにするのもいいと思います。様々なリスクが生じているのにもかかわらず把握できていないと、問題が表面化して初めて知った、ということにもなりかねません。

機密漏洩など、知らなかったでは済まされないトラブルが発生する前に規定を作ることをお勧めしたいです。

 

この機会に就業規則を見直しましょう

では、長時間労働の是正や有休取得の5日間義務化に関連する、就業規則の見直しポイントをまとめておきましょう。

時間外労働の上限規定について

労働時間の管理方法そのものを変えることになる場合は、就業規則の改定が必要になります。また、フレックス制やテレワークなどの特殊な時間管理方法を新たに採用する場合には、就業規則の改定だけでなく、労使協定の整備なども必要になってきます。

以前からフレックスタイムを導入している企業でも、新たな制度にある清算期間を3ヶ月に規定するのであれば、やはり就業規則の改定が必要です。

 

年次有給休暇の年5日の取得義務について

こちらはパターン別にみていきましょう。

会社が時季指定を行う場合
有休の取得率が思わしくない・・・そんな企業様は、予め取得時季の指定をすることで社員の確実な有休取得に努めておくことがお勧めです。この場合、有給休暇の与え方そのものに変更が生じるため、就業規則の改定が必要です。対象は誰かということと、時季の決め方を明記する必要があります。

計画的付与を導入する場合
有給休暇の計画的付与を行う場合には、就業規則を変更するだけでなく、「計画的付与に関する労使協定」を作成し締結する必要があります。いつ、誰を対象に、どのような方法で消化させるのか。計画的付与の対象者の範囲や、具体的な日数を規定しなければなりません。また、付与・消化は全員一致なのか、個人別に設定するのかという内容も必要です。

その他、より有休を取得しやすくするために、新たに「半休」を導入する場合も、就業規則の改定が必要です。

 

まとめ

「働き方改革」の中身について、中小企業が多く直面する「長時間労働の是正」「有休取得の義務化」といった問題を中心に見てきました。出退勤や残業時間の管理、有給取得状況の把握、就業規則の改定など、やることばかり・・・と嘆くお気持ちもあるかと思います。しかし、これは大きな企業成長の好機となるのではないかなと思っています。

大企業並みの「働きやすさ」を提供することで、離職を防ぎ、有能な人材が集まります。そして、業務効率化が進むことで、会社の生産性も上がります。

社員にも、企業にも双方にメリットがある「働き方改革」を上手に利用し、企業成長に繋げていきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

就業規則の無料相談・無料診断はこちら就業規則の無料相談・無料診断はこちら
お電話でのお問い合わせは… 「就業規則の件で」とお気軽にお問い合わせください。06-6147-6475お電話でのお問い合わせは… 「就業規則の件で」とお気軽にお問い合わせください。06-6147-6475
就業規則の無料相談・無料診断はこちら就業規則の無料相談・無料診断はこちら
お電話でのお問い合わせは… 「就業規則の件で」とお気軽にお問い合わせください。06-6147-6475お電話でのお問い合わせは… 「就業規則の件で」とお気軽にお問い合わせください。06-6147-6475
^